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子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)については「打つのは危険?」といった不安や、情報不足によりワクチンの存在を知らないという人も増えています。前回の対談記事の番外編として産婦人科医師・竹元 葉先生の意見も伺いながら、今回は子宮頸がん・HPVワクチンについての現状や安全性など詳しくご説明したいと思います。情報を正しく知り、ワクチンを受けるか受けないかで悩んでいる方もぜひ、参考にしてみてくださいね!
・竹元 葉/たけもと よう
sowaka women’s health clinic 院長
産婦人科専門医/医学博士/女性ヘルスケアアドバイザー/妊産婦食アドバイザー/ガスケアプローチ 認定アドバイザー 順天堂大学医学部卒。現代女性の健康意識改善に注力。気軽に相談できる医師をモットーに活動中。
1.子宮頸がんとHPVについて知ろう!
子宮頸がんは国内において年間約1万人の女性がかかり、約2,900人が死亡しています。(出典:国立がん研究センター「日本の最新がん統計まとめ」より)
子宮頸がんはそのほとんどが性交渉によるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因となっていることがわかっています。HPVは男女ともに感染リスクのある、ごくありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性の多くが一生に一度は感染するといわれています。ここでは、子宮頸がんとその原因となるHPVについて詳しくご説明します。
・子宮頸がん、HPVとは?
子宮頸がんは子宮入り口の子宮頸部と呼ばれる部分で発生するものです。がん化する前の前がん段階での病変が検診で見つかることもあり、早期発見と治療が大切です。また、ワクチンで予防することが可能な数少ないがんの一つであり、定期健診とワクチンの両方を受けることが理想的です。
HPV(ヒトパピローマウィルス)は皮膚や粘膜に感染するウイルスで、100以上の種類がありますが、がんになりやすいものはハイリスクHPVと呼ばれ、15種類が判明しています。
・子宮頸がんを発症する原因
子宮頸がんは、90%がHPVの感染を原因としています。がん化する可能性のあるハイリスクHPVには多くの型が存在しますが、日本では子宮頸がんを発症した人のうち60~70%が16型と18型によるものです。また、20~40 歳代に高頻度(※1)なこともわかっています。
前回、PMS・生理痛に関して詳しくお聞きした産婦人科医師・竹元 葉先生もHPVについてこう話されています。
「ヒトパピローマウィルスは、初めて性交渉を経験する前に打てば、高い確率で子宮頸がんの発症を予防できると考えられているため、女の子だけでなく男の子にも打っていただきたいですね」
・HPVに感染するとどうなる?
感染してもウイルスは自然に体外に排出されるのがほとんどです。ウイルスが排出されず持続的に感染した場合に、一部が前がん病変につながり、さらにその一部が子宮頸がんに進行します。初期に不正出血がみられることも少なくありませんが、進行とともに濃い茶色や膿のようなおりものが増えたり、下腹部の痛みや尿や便に血が混じったりといった症状が現れる場合があります。少しでも不安な症状があれば、ためらわずに婦人科を受診しましょう。
また、子宮頸がん以外にも口腔がんや咽喉頭がん、肛門がんなどの発生にも関わりがあり、男性もHPV感染によりこうした病気を発症する報告もなされています。
(※1)出典:厚生労働省「子宮頸がんの発生とHPV感染について」より
2.子宮頸がん(HPV)ワクチン受ける?受けない?
日本では子宮頸がんワクチン(HPV)は小学6年生~高校1年生までの女子を対象に定期接種となっており、無料で受けることができます。しかし、2013年に国内で起こった副反応の訴えがきっかけとなり、厚生労働省は接種勧奨を中止としました。以降、70%以上あったHPVワクチンの接種率が1%以下の水準にまで激減しています。ワクチンに関しては様々な情報がありますが、間違った情報に振り回されないようにするためにも、国内外の報告やデータなどの情報を得て、実情を知っておくことが大切です。 gonfiabili
・他国のHPVワクチン接種率と日本の状況
その後の研究では、ワクチンと副反応の因果関係が否定されていますが、不安の声はいまだ根強く残っているのが現状です。2018年の厚生労働省によるHPVワクチンの認知度について行われた調査(※1)では、HPVワクチンの意義や効果について「知っている」「少し知っている」が約4割となり、国内での認知度の低さも示されています。
現在、HPVワクチンはWHO(世界保健機関)が推奨、100か国以上で予防接種として導入されていますが、2020年スウェーデンのカロリンスカ研究所が行った研究(※2)では「HPVワクチンを接種した女性の発症リスクが63%下がった」という研究結果が報告されています。
(※1)出典:厚生労働省「HPVワクチンの情報提供に関する評価について」より
(※2)出典:カロリンスカ研究所「HPVワクチン接種と浸潤性子宮頸がんのリスク.」より
・データで見る子宮頸がん(HPVワクチン)の現状
では、日本と比べた海外のワクチン接種状況はどうでしょうか?各国の比較データをみてみましょう。
【日本と海外のHPVワクチン接種率比較】
(出典:WHO「Monitoring and Surveillance of HPV Vaccination Programmes」より
◆イギリスやオーストラリアでは接種率が80%以上で、他の国々と比べても日本は格段に低いことがわかります。
【子宮頸がん罹患率データ】
(出典:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」より)
◆子宮頸がんの罹患率は20代後半にピークとなり、40歳前後まで高いことがわかります。
この日本と海外の状況、国内での子宮頸がんワクチンの接種について、竹元先生にもご意見を伺いました。
「子宮頸がんは予防できる数少ないがんの一つです。イギリスでは接種する人が約8割、オーストラリアなどでは男女ともに接種を国のプログラムとして取り入れています。ですが、日本においてワクチン接種率は現状でわずか1%以下という状況です。
接種に関して海外ではすでに膨大なデータがありますが、打って副反応が起こるリスクよりも、打つことで命に関わる病気を予防できるメリットのほうが大きいと捉えられています。なので、こうして世界的な取り組みとして各国でもワクチン接種を勧めているのだと思います」
3.子宮頸がん(HPV)ワクチンの副反応とは
HPVワクチン接種後の副反応として重篤な副反応が起こる割合は低く、厚生労働省のデータ(※1)では2,000人のうち1人という割合です。ワクチンに関する情報不足から「副反応が心配」といった声は多く聞かれますが、まず不安や疑問に思う部分をきちんと解消することが、正しいワクチン理解につながります。
・副反応にはどんな種類がある?
軽度の副反応では、発熱や接種後の痛み・腫れといった一時的なものがありますが、これらは、ほかの薬剤の注射などでも起こることがあります。また、注射時の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)した事例もありますが、のちに回復しています。
重篤な副反応では、アナフィラキシー(重いアレルギー)、ギランバレー症候群(手足の神経障害)、急性散在性脳髄膜炎(頭痛、意識低下、脳神経の疾患)などがあります。HPVワクチン接種後、慢性の痛みがある複合性局所疼痛症候群(CRPS)の報告が数例あり、当時のマスコミでは大きく報道されました。
睡眠障害や記憶障害など多岐にわたる症状も報告され、多くの人が重い副作用で苦しんでいるように思われましたが、これら副反応の発生率は他国同様、特別高いというわけではありません。
この副反応を取り巻く問題について、竹元先生に医師としてのお考えを伺いました。
「子宮頸がんワクチンはマスコミの影響もあり、打つのが怖いといったイメージをもってしまった方も多いですが、普通のワクチンと同じで特にリスクが高いということもありません。20代の若い方が亡くなったり、子宮を失うということも起こりえる病気なので、大切な人や自分の命を守るためにも、よく考えてみて欲しいと思っています」
・HPVワクチンの安全性について
厚生労働省によると各国の詳しい調査(※2)でも副作用との明確な因果関係がないことが証明されました。ただ、副反応で苦しんでいる方がいることや、リスクがゼロではないことも事実です。またこのワクチンはインフルエンザなどの皮下注射と違い、筋肉内注射であることから痛みが生じやすいともされているので、心配であればまず担当医師に相談しましょう。また、厚生労働省でも予防接種に関する健康被害の相談窓口や救済制度を設けています。
(※1)出典:厚生労働省「子宮頸がん予防ワクチンの安全性に関する海外の状況について」より
(※2)出典:厚生労働省「諸外国の公的機関及び国際機関が公表しているHPVワクチンに関する 報告書」より
4.子宮頸がん(HPV)ワクチン受けるなら何歳?
HPVワクチンは打つのに適しているとされる年齢があります。国でも定期接種として推奨年齢を定めているので、その対象期間内なら無料で打つことができます。打つ回数や接種の際に子宮頸がんの検診も受けておくべきかなどの疑問も含めてご説明します。
・HPVワクチン接種の推奨年齢と回数
HPVワクチンの接種は性行為を経験する前の年代、10代前半がよいとされています。感染予防が目的のため、HPVウイルスに感染する前の接種が効果的としているためです。接種の必要回数は3回ですが、小学校6年生または中学1年生になったら初回接種を受けます。1~2か月間をあけ2回目、初回接種の6か後に3回目を接種しますが、初回に接種した同じ種類のワクチンを必要回数受けることが必要です。抗体を体内に長期間、高濃度で産生し続けるためには、HPV ワクチンを複数回接種 するのが有効とされています。
・大人のHPVワクチン接種は効果がある?
HPVワクチンはすでに感染している場合、HPVを排除する効果は認められないとする研究結果が出ています。では30代以降の大人や性交渉の経験がすでにある成人女性は必要ないのか、というと決してそうではありません。HPVは一度感染しても免疫を獲得しにくく、何度でも感染を繰り返すといわれます。そのためにワクチン接種しておけば、抗体を得て維持しておくということになります。性交渉の経験がない場合であっても同じく、今後の感染機会がゼロでなければ受けておいたほうがよいでしょう。これまでに海外で行われたHPVワクチンの有効性についての研究(※1)では、ワクチン接種後10年以上の間抗体が維持されることもわかっています。
日本小児科学会・日本産科婦人科学会では、11~14歳での優先的な接種を強く推奨(※2)していますが、 同時にこれまでワクチン接種ができなかった15~45歳の女性に対する接種も推奨しています。定期接種対象以外の年齢では自費となりますが(費用詳細については次の章でご説明しています)妊娠や出産といったライフプランなども考慮し、よく検討されることをおすすめします。
・子宮頚がん検診も受けるべき?
子宮頸がん検診の重要性について、竹元先生にご意見を伺いました。
「性交渉の経験前にワクチンを打ってもらいたいのはもちろんですが、ワクチンを打ったから安心ということではありません。検診を受けることも大切なので、性交渉経験がある方も子宮頸がん検診を2年に1回など、定期的に受けることが必要です」
子宮頸がん検診・ワクチンともに有効な予防方法ですが、ワクチン接種が検診の代わりにはなりません。「2.子宮頸がん(HPV)ワクチン受ける?受けない?」で紹介した罹患率データが示すように、発症率は20代から上がりはじめ30代後半がピークとなります。定期的に子宮頸がん検診を受けていれば、がんになる以前の「前がん病変」で発見して治療することができます。
(※1)出典:厚生労働省「HPVワクチンの有効性について」より
(※2)出典:日本産婦人科婦人科学会、日本小児科学会、日本婦人科腫瘍科学会「ヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチン接種の 普及に関するステートメント」より
5.子宮頸がん(HPV)ワクチンの費用と受けられる場所
ここでは、HPVワクチンを受けられる場所や、任意で受ける際にかかる費用について詳しくご説明します。また、2021年に国内で承認された新たなワクチンについてもご紹介していますので、これから受けようという方はぜひ参考にしてみてください。
・HPVワクチンを無料で受けるには?
公費対象年齢でHPVワクチンの接種を希望する場合は、住んでいる地域で申し込みが必要です。予診票(ダウンロードもしくは電話で各自送付してもらう)と健康保険証などの身分証、母子手帳を準備し、各自治体の実施医療機関で行います。詳細はお住まいの市区町村で予防接種担当課に問い合わせ、もしくはサイト等で確認してください。
(参考)東京都港区の場合
・HPVワクチンを自費(任意)で受ける場合
対象年齢以外での接種を希望する場合は、実施医療機関に直接申し込み・予約を行います。予防接種に関しては保険適用がなく、全額自己負担となります。HPVワクチン(4価、9価)の接種費用では4価が16,000~、新ワクチンとなる9価が30,000円~で、病院によっても違いがあります。また病院によっては個別説明や面談の別料金が発生する場合もあるのでよく確認しましょう。
・変わりつつあるHPVワクチンの国内状況
積極的な接種呼びかけを中止してきた厚生労働省も2020、2021年と定期接種対象者への個別周知を自治体に求めており、国内の子宮頸がん・HPVワクチンに関しての状況にも少しずつ変化がみられています。今までよりも幅広い型のHPV(9種類)をカバーし、効果が高いといわれている「シルガード9(9価ワクチン)」も承認され、竹元先生が院長をつとめるsowaka women’s health clinicでもうつことができます。
今までのワクチン「サーバリックス」と「ガーダシル」では、子宮頸がん全体の70%ほどをカバーしていましたが、新ワクチンである「シルガード9」は子宮頸がんの90%を予防できると考えられています。1回30,000~3,5000円ほどと高価ですが、予防効果も高いため選択肢のひとつといえるでしょう。
※「シルガード9」については厚生労働省より登録が義務化されており、インターネットによるEメール登録や情報登録が必須です。接種を受ける医療機関に直接お問い合わせください。
・HPVワクチンへの理解を深める
HPVワクチンの接種に悩む方は、かかりつけ医や予防接種実施医療機関の医師からワクチンの説明を受け、検討するというのもよいでしょう。お子さんが受ける場合も不安のないように効果や副反応について説明し、本人が理解しておくことも大切です。
まとめ
今回は、子宮頸がん(HPV)ワクチンについて、国内における現状や疑問点などを産婦人科医の竹元葉先生にもお聞きしながら、詳しくご説明してきました。HPVワクチンの承認や定期接種者への個別周知(リーフレットの発送)などで少しずつ状況も変わりつつありますが、日本ではまだHPVワクチンに関して積極的な姿勢をとっていない状況です。
接種に関して迷っている方は、まず情報収集する(ネットでは噂話に惑わされず、公的機関でチェックすることをおすすめします)、かかりつけ医や接種を実施している病院で直接医師に相談してみる、など「正しく判断する」ために動くことから始めましょう。HPVワクチンの定期接種対象であれば、迷ううちにお子さんの大事な機会を失ってしまうことにもなる大切な問題です。不安であればきちんと向き合い、お子さんの将来やご自身のことをよく考えて、ご家族で話し合ってみるといいかもしれません。